W杯「ベスト8の壁」分析 独自調査でわかった日本の現在地「世界23位」!

カタール・ワールドカップも残り2試合、最高の「クリスマス」

W杯はやはり世界最高のスポーツイベント! まさに世界を巻き込んだフィエスタ!

準決勝を終えて、残すカードは3位決定戦「クロアチア対モロッコ」と最終日の決勝「アルゼンチン対フランス」という屈指のカードになりました。

今大会は初の冬開催になりましたが、世界中のフットボールファンにとってこの組み合わせは、最高のクリスマス・プレゼントでしょう。

 

日本が直面する「ベスト8の壁」の正体を突き止める

 

日本代表は、決勝トーナメント第1回戦・ベスト16でクロアチアとの延長戦の末に勝敗つかず、惜しくもPKでの敗退となり、今回もベスト8の壁を破ることができませんでした。

 

この記事では、JFAが掲げる「2050年までにW杯優勝」を現実にするためにも、「ベスト8の壁」を感情的にならず、冷静に、かつポジティブに、分析しておい方が良いと考え、「ワールドカップの決勝トーナメントで勝つ」ための条件を自分なりに考えてみました。ご一緒に、日本がベスト8に勝ち上がるために必要な要素を見てみましょう。

 

独自調査「W杯決勝トーナメント徹底分析」

日本が本格的にW杯を目指したのは、いつか。それはちょうど私のサッカー観戦歴と重なります。

悲願だったW杯出場のためにJリーグを立ち上げたのが1993年、その前年1992年にアジア大会を誘致しました。それが、日本の世界への本格挑戦のキックオフでした。この広島アジアカップで初めて韓国を破り、国際大会で優勝し、「それっ!アメリカに行こう」っていう感じでサッカー狂騒曲が始まったのです。

 

今回はそこを起点に「ドーハの悲劇」でW杯行きを逃した1994年アメリカ大会以降の約30年間の大会記録を洗い出しました。

1994年アメリカ、98年フランス、2002年日韓、06年ドイツ、10年南アフリカ、14年ブラジル、18年ロシア大会までと、今回のカタール大会(12月16日決勝進出決定までの状況)を掘り起こしてできたのが、この「強豪国のランキング」です。

具体的な方法は、優勝国6点、準優勝5点、3位4点、4位3点、ベスト8進出で2点、ベスト16が1点という形で、決勝トーナメントでの勝利・順位に応じて配点し、それを集計しました。

その間、日本は、初参加のフランス大会では、勝ち点ゼロで1次リーグ敗退とほとんど爪痕は残せませんでしたが、2002年日韓大会で、開催国としての意地を見せ、初のベスト16を成し遂げています。それで、やっと1点が入ります。それから、10年南アフリカ、18年ロシア大会、22年カタール大会でのベスト16を獲得していますので、総点4点となります。

 

日本がいままで目標とし、さかんに討論していた「1次リーグ突破」ではなく、その後の負ければ帰国という厳しい命がけの闘いの場である「決勝トーナメントだけに絞ったランキング」です。

 

分析1 決勝トーナメント指数ランキング

この観点で、W杯参加国を順番に並べてみると、W杯決勝トーナメントでの国力差、その優劣が見えてくるのではないかというアプローチです。

 

過去8大会で、決勝トーナメントに進出したのは、総勢42チーム。

そのすべてが厳しい1次リーグを勝ち上がってきた代表です。

 

全リスト公開 これがW杯のパワーランキングだ!

 

これ!これ!これこそ、イメージ通りの出来栄えです。

直近の国際試合の勝敗で指数化するいわゆるFIFAランキングよりも、「ザ・ワールドカップ」の熾烈さを表しているリストになっています。

W杯でリアルに優勝を狙う国が上位にちゃんといて、ベスト8の常連はしっかり把握できるし、決勝トーナメントにまだ慣れていないチームの事情も透けて見える、深読みができるランキングです。

 

自分なりに、強豪、中堅、新興、それ以下(お上りさん)に区分しましたので、上位から詳細に見てみましょう。

 

異次元の戦績 1位キング・ブラジル、2位 フランス 3位 ドイツ

まさに常勝軍団がトップ3を形成しました。

突出しているのは常勝ブラジルです。

全8大会でベスト8進出。優勝2回、準優勝1回、準決勝進出1回と見事しか言いようがありません。

選手層の分厚さ、サッカーを苦悩ではなく「フィエスタ(お祭り)」として楽しむ国民性、カナリアカラーのユニフォームを着た時の団結など、これ以上、キングに相応しい国はありません。

 

2位は同じくトーナメント経験豊富なフランス。

ベスト8が5/8大会と、正直、ブラジルに比べると浮き沈みが激しく見えるフランスですが、衰退期を極端に短くしているの点が特徴です。

列強にありがちな衰退期、つまり「育成世代の端境期」という点をデシャンという人物の歴史を通してみると、明確になります。彼が現役で主将だったフランス大会で勝つために、フランスはアフリカ移民を取り入れた融合路線で成功し、ジダンを中心に優勝を勝ち取ります。そして前回のロシア大会では、デシャンはその融合第2世代を有して監督としての再桂冠を達成します。さらに今大会の決勝進出を成し遂げており、2連覇を窺う勢いです。

こうしてみるとデシャンが選手、監督のどちらの立場でも出場していない短い時期だけ、フランスは低迷し、彼がそれを見事に立て直したのです。選手から監督と立場を変えながら優勝をつないでいく見事な人生としか言えません。

 

ベスト8への必要要素:決勝トーナメントの選手経験を持つ自国監督の誕生

 

これが今後、日本が求める「監督像」だと思います。勝ちのメンタリティを持ち、「優勝」の経験とそれを成し遂げる最新の「知恵」をもった「自国監督」こそが、次のステップのキーなのです。

 

3位は今大会で日本に手痛い敗戦を喫して評判を落としたドイツです。

それでも優勝1回、準優勝1回、3位が2回で、フランス同様ベスト8が5/8大会の成績です。ゲルマン魂はW杯で健在でした。

直近2大会が1次リーグ敗退となり、現在は停滞期に見えます。これこそが列強の抱える「育成世代の端境期」なのです。ブンデスリーガの復活とともに狼煙をあげた新生ドイツは、FWのクローゼ、シュバインシュタイガーを中心とした豊富な中盤、そして世界最高峰GKノイアーを生み出し、世界を席巻しました。しかしその後、選手層の切り替えに失敗し、ベテランの引退が続き、自国リーグレベルにとどまる選手も多く、いまや小粒なチームになってしまいました。ベスト3から滑り落ちるのかどうか、この端境期をいかに短くできるかにかかっていると思います。

ベスト8への必要要素:育成の端境期の回避

 

もうひとつドイツから学びたいのは、かの国が持つ監督の継承システムです。必ず現監督のもとに次期監督候補を「補佐」としてつけておくのです。これはドイツが得意の「長期戦略思考」からきています。

クリンスマン時代のレーム監督補佐が有名な事例です。レームには輝かしい選手時代がありませんが、この経験がドイツ代表の輝かしい時代をつくりました。

日本の今回の成功も、西野監督下で森保監督がW杯を経験していたことが大きく影響していると考えられます。これを継続するのであれば、次期第2期森保体制においては、「海外経験豊かな代表OB」を次期監督候補として「補佐」に向かい入れる必要があると考えます。

 

ベスト8への必要要素:トップリーグ経験者を監督補佐として継続的な継承体制をつくること

 

このW杯優勝経験のある3か国に共通しているのは、国家元首から国民まですべての人がW杯の優勝を願って、代表に対して支援をしているということです。それは、ここでの優勝がいかに国の威信を世界に示すことができるかを身をもって知っているからでしょう。

それを証拠に、国家元首自らが開催国に出向き、試合を観戦しています。今回も準決勝からフランスのマクロン大統領が現地入りし観戦、ロッカールームで勝利を選手たちと抱き合って喜んでいました。記憶に新しいのは、ドイツのメルケルも大のフットボールファンで、もちろん決勝を観戦して、両手を上げて得点を喜んでいましたね。

例えば、このカタールの地で行われる優勝決定戦に、日本の天皇陛下または総理大臣を送りだそうとスケジュール調整した官僚がいるかどうかというと、そんな状況だとは思えないですよね。それが「当たり前」だと国民全員が共通理解するレベルで、国を挙げて代表の優勝を信じる。その総力が優勝をひきつるのだと思います。

ベスト8への必要要素:国を挙げて「優勝を信じる総合力」

 

強豪国上位の顔ぶれ オランダ、アルゼンチン、イタリア、クロアチア

ベスト3を虎視眈々と狙うセカンドグループは、直近8大会で決勝カードに複数回駒を進めているチームが並びました。メンバーはトップ3からはトーナメント指数では見劣りしますが、それでも優勝経験を持つイタリア、連続ベスト4の功績が光るクロアチア、そして「優勝!」を悲願にするオレンジ特急・オランダが並びました。

自国のセリアAのレベルダウンに悩むイタリア、トップリーグへの輸出で選手層を厚くしていたオランダはアジアにその座を奪われ思うように育成がうまくいってない。それぞれの課題を抱えながら、この30年で決勝トーナメントで勝ちを積み上げてきています。

 

強豪国下位に甘んじる イングランド、スペイン

強豪国のなかでも序列が感じられるのは、準決勝進出常連とベスト4の壁を崩せないチームの差です。

常勝のイメージがあるイングランドとスペインですが、こうして冷静に分析してみると、トップチームとの差が見えてきます。さらにこの2チームでも直近の大会に絞れば、フーリガンしか話題がなかった一時の低迷を脱して、いまや好調プレミアリーグを背景に日の出の勢いのイングランドに対して、2010年の優勝以降翳りの見えるスペイン。

こうしてみると日本は今大会において、スペインと同組に入ったのはラッキーと考えるべきだったのかもしれません。強豪国のなかでも与しやすい相手だったと言えると思います。

 

強豪への成り上がりはクロアチアに学べ

 

ここまで、ベスト8の常連である、強豪国の顔ぶれに異存のある人は少ないと思います。

そして、よく見てください。クロアチアがどうして日本に勝ったのか?相手がクロアチアならベスト8の壁を破れるのではないかという戦前の予測がいかに「無邪気」だったかが、よくわかると思います。クロアチアは、いまや1次リーグ突破をしさえすれば、ベスト4以上に食い込む超強豪です。

このランキングで見れば、プレミアのイングランド、リーガのスペインより上位であり、決して侮れない正真正銘のワールドリーダーなのです。

 

また、逆に見れば、「強豪国には、小国クロアチアでもなれる」ということは、我々に勇気を与えてくれます。強豪入りの見事なお手本なのです。

ご存じの通り、クロアチアの歴史は浅く、ボスニア紛争後に誕生した人口410万人の小さな国です。

ユーゴスラビア連邦時代の代表メンバーの間でボスニア紛争当事国になり、その後も様々な代表の名前でW杯に参加した歴史を持つという暗い過去を持ちます。

そのボスニア半島の歴史の一端は、今大会で監督として登場したセルビアのストイコビッチや日本監督を務めたオシムさんなどを通じて日本人にはおなじみです。

現在、その歴史を象徴する精神的な支柱が、このクロアチア・サッカー代表なのです。そして340万人の国民の「闘魂」がこのチームのガソリンなのです。

 

こうした歴史の浅い新興国でも、ベスト8の壁を2大会連続で抜ければ、強豪国の仲間入りが可能なのです。

まさに日本が見習うべき次のターゲットが「クロアチア」だと言っても過言ではありません。

故に、今回のカタール大会でクロアチアが見せた試合巧者ぶりを子細に分析すべきです。

わずか1勝で準決勝にたどり着いた省エネの戦略、笛が鳴るまで決してあきらめない「渋い」戦いぶりこそ、トーナメントの闘い方なのです。

決勝トーナメントでベスト8以上を想定する日本が今後取り込んでいくべき課題はそこにあります。

決勝トーナメントとは、そういう場所なのです。

 

ベスト8への必要要素:クロアチアなど最近強豪国になった国から決勝トーナメントのこなし方を学ぶ

 

中堅国のメンバーは、熾烈な順位争い

ベルギー、ポルトガル、ウルグアイ、スウェーデン、トルコが感じる「ベスト4の壁」

強豪国入りを狙う「列強」の感がある中堅国ですが、このリストを見れば明快で、決勝カードに進出した経験はないのが特徴です。最高でベルギー、スウェーデン、トルコが3位、韓国が4位の実績になります。

また、ベスト16の取りこぼしもこの中堅国のレベルから顕著になり、1次リーグの組み合わせによっては、トーナメントに参加できないという限界も見えてきます。「死の組」の餌食になりやすいレベルなのです。

 

ベスト4の壁 個の力を持つ選手層

この中堅国の国々が直面しているのが、「ベスト4の壁」なのでしょう。この壁を乗り越える鍵は「個の力を持つ選手層の厚さ」だと思います。

 

砂漠の大会となった今回のカタール大会はそれが決定的な勝利要因になりました。交代枠の5人交代に拡大され、登録人数も増えて、参加する26人の全員が列強トップリーグに所属するレベルなのかどうかが、試されました。

中堅国を観察すると、「優秀な選手が現れた年度ならベスト4の壁を破れるけど、それが長続きしない」という点が、課題になります。このレベルの国は必ず長期の育成組織を立ち上げます。しかし順調に長期育成で進んでいたとしても、FW、MF、DF、GKがしっかり揃うことは少ないのが現実です。この選手層の薄さが戦績に長い影をもたらすのです。

プロリーグならばそれを他国選手の獲得でカバーすることができますが、W杯ではそれが致命的な欠点になるのです。FW、MF、DF、GKの各層をバランスよく育成し、個の力を持つ選手を各年代でつくらなければならないのです。

例えば、次回大会からFWロナウドを欠くことになるポルトガル、FWスアレスを欠くであろうウルグアイ、そして国を挙げて取り組んできた長年の育成の「黄金期」でもベスト16に届かなかった今大会のベルギーの今後を考えると、国民の嘆きが聞こえてきます。それはイブラヒモヴィッチを欠いたスウェーデンの現在であり、このリストにいる古豪ブルガリアの現在でもあるのです。ここまで順調に成長を遂げてきた日本にとっても大きな課題になるはずです。

 

ベスト8への必要要素:「個の力」を持つ選手層の分厚さ

 

 

メキシコ、アメリカ、韓国 FIFAの優秀な生徒たちが直面する「ベスト8の壁」

 

さて、中堅国にしっかり名を刻んでいるのが、私がたびたび言及する「FIFAエリート国」です。

これらの国々は、FIFAの目的である「フットボールの世界普及」のために、8年に1度、欧州と南米以外で開催されてきたW杯の開催経験国です。メキシコ、アメリカ、韓国はその責務を全うし、いまや決勝トーナメント常連になったのです。

FIFAの素晴らしい戦略と、それに答えているエリートに任命された国々の素晴らしい実績です。

これらの国々が直面しているのが、まさに「ベスト8の壁」でしょう。

実際にはアメリカ、韓国は1度は自国開催の時に突破していますが、それ以降はいつも跳ね返されています。

 

韓国に対するコンプレックスから、日本はFIFAエリートの国々のレベルを同一視しがちです。

このランキングでも韓国がかなり上位であり、過去W杯予選において韓国には勝てない時代が長かったのが歴史の事実で、サッカーにおいては韓国の後塵であることを常に意識する必要があります。

よくメキシコが日本の見本だという話で持ち出されますが、日本がベスト16経験がわずか4回なのに対して、メキシコの実績は連続7回。今回わずかに届かなかったですが、実績を見ればあきらかに差があります。

まずはメキシコが持つ「ベスト16連続7回」を目標にしましょう。現在日本は過去2回連続してますから、残り5大会連続、20年間ベスト16を続けるということです。

それがができて初めて、いまのメキシコと同等になるのです。

実際は、20年後にメキシコはもっと上位にいるとは思いますが・・・笑。

 

ベスト8への必要要素:開催国の先輩が持つ「連続ベスト16進出記録」を塗り替えること

 

これらの分析に基づけば、日本は長期的には、このFIFAエリート3か国を「良き先輩」、「身近な見本」として、このレベルに追い付くというのが、現実的な目標設定だと思います。つまり本大会に出たならば、1次リーグの勝ち抜けは当然で、ベスト16の常連になるのです。これは、先輩たちを見る限り我々が考えるよりもかなりタフな目標で、継続性を強く求められるタスクです。

ただし、W杯決勝トーナメントは一発勝負ですから、今回のようにギャンブルが的中して、ベスト4まで一気に駆け抜けるということは、いつでも起こりえます。この中堅国リストでも今回のモロッコがまさにその事例です。そうした短期的な事態にも柔軟に対応する力と体制は作っていきたいですね。

 

現在は「新興国」に位置する日本 23位、4点の意味

さて、こうした中堅国を脅かす存在が「新興国」という存在です。

正直、16位以下の新興国は、大会によって上位の国が地区予選を勝ち上がってこない場合、ベスト16に滑り込むレベルの国々です。表を見ればわかる通り、この新興国は、いずれも「準決勝」進出経験がありません。よくてベスト8であり、そのベスト8の連続のないという国々です。しかし上位は連続ベスト16を成し遂げています。

 

それでも名前を並べれば十分に列強として有名なチームばかりです。

 

欧州:デンマーク、スイス、ルーマニア、ウクライナ、ロシア

中南米:パラグアイ、コロンビア、チリ、コスタリカ

アフリカ:ガーナ、セネガル、ナイジェリア

アジア:日本

 

いかがですか、私はこの中に、アジアから1か国だけ日本がエントリーしていることを誇りに思います。

因縁のコロンビアと並んで、わずか8大会で上位の23位まで駆け上がりました。

それが日本が積み上げた4点の意味です。世界ランキング23位、アジア第2位。

そして今回のカタール大会では初めてベスト16進出が「つながった」のです。連続ベスト16の価値は新興国のなかで上位に定着できるかどうかの試金石です。

30年前は出場経験がなかった国が順調にここまで来たのです。私たちの代表は素晴らしい、私たちの代表は本当に驚異のスピードで成長しているのだと思います。

 

アフリカの発見とその吸収

 

新興国の周りを見れば日本の成長と合わせるように同時期に、この地位に入ってきたのがアフリカ諸国です。今回のモロッコの準決勝進出に象徴されるように、それはW杯に新しい色彩を加えました。

94年アメリカ大会で話題になったアフリカ諸国の驚くべき「身体能力」です。

「南米のマジック」対「欧州の戦略」という二大対決を見せていたW杯に新たなステージに引き上げたと思います。

 

しかし貪欲な列強のサッカーは、それをこの30年ですべて吸収しました。

アフリカ選手だけが特出していたアスリート並みの身体能力、バネのような筋力、驚異のスピードは、いまやサッカー選手すべてに求められる基礎的な資質の一部になりました。

 

そして、その最高傑作がフランスのエムパべです。彼が持つ爆発的な走力、無限のスタミナ、驚異の跳躍力が強豪国がアフリカから取り込んだ全てです。

列強は30年かかってアフリカらしさを自国のものとして吸収し、ネクストステージに成長したのです。

W杯で体験した新しい要素をサッカー界は貪欲に取り込む。これがFIFAが世界普及を志す一つの成果なのです。W杯は新たな発見の旅であり、それを各国が吸収して、全体がさらに発展する「場」なのです。

 

日本がW杯に与える「影響」

 

今回、日本が示した「サッカー観」も同じく世界中にインパクトを与える可能性があります。

「ワールドカップの進化に日本が貢献する」、それこそがFIFAの目標である「サッカーの世界普及」の精神への貢献だと思います。

今大会で初めて日本は世界から憧れられるフットボールをしたと思います。

サッカー強国の闘い方ではなく、弱小国を勇気づける、具体的な列強の倒し方を示したからです。

 

ドイツ、スペインという優勝経験がある上位の強豪国との戦いに際して、ひるまず、常識を捨ててポゼッションを放棄して、0-0で時間を「消して」、先制されても冷静に、監督の研究と選手の個の力で、カウンター攻撃を計算通りに仕掛けて、逆転して勝ち切る能力。

そして反則も抗議もせず、イエローカードすらもらわないクリーンな試合運び。レッドカード未発行記録は日本が誇るべき世界記録です。

また前回大会の1次リーグ最終戦で見せたように試合に負けていても、フェアプレーポイントで勝ち上がれることを理解してパス回しで時間を進めるというクレバーなルール研究もあげておくべきでしょう。今回の5人交代枠の最大活用もこの能力と同じ知力だと思います。

礼節と正義に基づいたW杯における日本代表の行い。そしてスタジアムやロッカールームを塵一つなく片付けるサポーターやスタッフの姿が、W杯になんらかの影響を及ぼす可能性は十分にあります。

これらの行いが、世界から「サムライサッカーはスゴイ!」と称賛を集めることができるのです。

 

なにしろサッカー界は貪欲なのです。多分、今回活躍した日本人選手は活躍の場を欧州トップリーグに移すでしょう。それに続く若い選手もどんどん増えるでしょう。彼らの活躍が、いままではアジアのハイテク国家、平和憲法を持つ国というパブリックイメージの日本に新しい要素を付け加えていくはずです。

そうすれば、強豪国がそうであるように、シャンパンファイト、カテナチオ、ファンタジスタ、チィキタカ、フライングダッチマン・・・というような日本サッカースタイルに「あだ名」を付けてくれる日がいつか来るはずです。

 

ジャイアントキリング!を見せる「お上りさん」

日本が卒業した「お上りさん」レベルを簡単に見てみましょう。

 

欧州:アイルランド、ポーランド、スロバキア、ユーゴスラビア、ノルウェー、ギリシャ

中南米:エクアドル

アフリカ:アルジェリア

アジア:オーストラリア、サウジアラビア

 

1次リーグやベスト16で、強豪国を破ると「ジャイアントキリング」としてニュースになる存在ですね。そこにW杯らしい熱狂が宿ります。W杯の前半戦は彼らの活躍が盛り上げるのです。

アイルランドやオーストラリアという新興国候補も散見されます。この2か国はベスト16経験が複数回に及びますが、いままで述べてきた育成の端境期などを乗り越えられずに継続的な成績を残せていないという実情が見えます。

他の国々は、1次リーグの組み合わせがラッキーだったと考えるべきだと思います。

 

分析2 化け物の存在 フェノミナ・リスト

トーナメント指数と同時にもう一つ重要な分析をしてみました。1994年アメリカから今回のカタール大会までの「優秀選手リスト」です。

具体的な方法は、各大会のMVP、得点王、最優秀GKなどの表彰された優秀選手をリストアップしました。

 

一目瞭然なのは、上位に固まっていることです。主に上位強豪国が、大会で表彰されるような優秀選手を連続して輩出しているさまがリアルにわかります。

30年の歴史でみれば、選手育成にラッキーパンチは存在しません。優秀な選手は、優秀な育成戦略が輩出するのです。

高順位が表彰選手を生むのだから当たり前といえば当たり前の結果なのですが、順にここに挙げられた選手の名前を見ていけば、それがその時代のベストプレーヤーであることがわかると思います。

各国代表は、各年代に「フェノミナ」と呼ばれる名選手を輩出してきたのです。彼らは別名で「レジェンド」として語り継がれます。W杯の各大会を彩る輝かしいスターたちです。

 

FWの怪物たち

順位 国名 レベル FW
1 ブラジル 強豪国 ネイマール、ロナウド、ロナウジーニョ、ロマーリオ
2 フランス 強豪国 エムバペ、アンリ
3 ドイツ 強豪国 クローゼ、ミュラー、クリンスマン
4 オランダ 強豪国 ベルカンプ、ロッベン
5 アルゼンチン 強豪国 メッシ、イグアイン、クレスポ、バティストゥータ
6 イタリア 強豪国 トッティ、デルピエロ、バッジョ
6 クロアチア 強豪国 シュケル
8 イングランド 強豪国 ケイン、ルーニー
9 スペイン 強豪国 ビジャ、ラウール
10 ベルギー 中堅国 ルカク
10 スウェーデン 中堅国
12 ポルトガル 中堅国 ロナウド
13 ウルグアイ 中堅国 スアレス、フォルラン
14 韓国 中堅国 (ソンミン)
15 トルコ 中堅国 ハサン
15 メキシコ 中堅国
15 アメリカ 中堅国
18 ブルガリア 中堅国 ストイチコフ
18 モロッコ 中堅国
20 デンマーク 新興国 Bラウドルップ
20 パラグアイ 新興国
20 スイス 新興国
23 日本 新興国
23 ガーナ 新興国
23 セネガル 新興国 ディウフ
23 ルーマニア 新興国
23 コロンビア 新興国 ハメス・ロドリゲス
28 ロシア 新興国 サレンコ

 

MF・DFの怪物たち

順位 国名 レベル MF DF
1 ブラジル 強豪国 ドゥンガ、リバウド ロベ・カル、サントス、ジョルジーニョ
2 フランス 強豪国 ジダン、ポグバ、デシャン テュラム、デサイー
3 ドイツ 強豪国 バラック、シュバインシュタイガー、ポドルスキー
4 オランダ 強豪国 スナイデル、ダービッツ Fデプール
5 アルゼンチン 強豪国 シメオネ、(ベロン)
6 イタリア 強豪国 ピルロ カンナバーロ、マルディーニ
6 クロアチア 強豪国 モドリッチ
8 イングランド 強豪国 ベッカム
9 スペイン 強豪国 イニエスタ プジョル、イエロ
10 ベルギー 中堅国 アザール
10 スウェーデン 中堅国 ブロリン
12 ポルトガル 中堅国 フィーゴ
13 ウルグアイ 中堅国
14 韓国 中堅国 ホンミョンボ
15 トルコ 中堅国
15 メキシコ 中堅国
15 アメリカ 中堅国
18 ブルガリア 中堅国 パラコフ
18 モロッコ 中堅国
20 デンマーク 新興国 Fラウドルップ

 

GKの怪物たち

順位 国名 レベル GK
1 ブラジル 強豪国
2 フランス 強豪国 バルデス
3 ドイツ 強豪国 ノイアー、カーン
4 オランダ 強豪国
5 アルゼンチン 強豪国
6 イタリア 強豪国 ブッフォン
6 クロアチア 強豪国
8 イングランド 強豪国
9 スペイン 強豪国 カシージャス
10 ベルギー 中堅国 クルトワ、プロドーム
10 スウェーデン 中堅国
12 ポルトガル 中堅国
13 ウルグアイ 中堅国
14 韓国 中堅国
15 トルコ 中堅国
15 メキシコ 中堅国
15 アメリカ 中堅国
18 ブルガリア 中堅国
18 モロッコ 中堅国
20 デンマーク 新興国
20 パラグアイ 新興国 チラベルト

このリストの外側には、列強が持つトップリーグで活躍する素晴らしい選手が数多くいるのですが、所属の国がW杯地区予選を勝ち抜けない、W杯決勝トーナメントに勝ち進めないなどの事情で、決勝トーナメントでは評価されず、この表には出てくることができないのです。

 

日本がこの伝説レベルの選手を輩出する日が来なければ、決勝トーナメントで好成績を残せないと思います。

 

化け物になって帰ってきます

 

「化け物になって帰ってきます」というのは、このカタール大会でクロアチアに負けた時に若い田中蒼選手が残した言葉です。その決意は、このリストに載るような活躍ができる選手になるということです。

 

そのためには、まずは、列強が持つ世界トップリーグにトレードされること。

そこでコンスタンスに活躍すること。

加えて、日本代表に選抜されること。

そして日本がアジア予選を勝ち抜くこと。

最終的にはW杯において、1次リーグを勝ち抜くこと。

そのうえで、決勝トーナメントで活躍すること。

これが怪物の条件です。

 

日本選手は今以上に「個の力」を磨き、この怪物を目指してもらいたいと思います。

 

ベスト8への必要要素:トップリーグで活躍する「怪物」の輩出

 

以上で、今回の分析を終わります。最後に、ここまでの調査で見えてきた、日本の今後のタスクをまとめておきます。

 

・国を挙げてW杯優勝を支援する体制

・トップリーグ経験者を監督補佐として継続的な継承体制をつくること

・決勝トーナメントの選手経験を持つ自国監督の誕生

・最近強豪国になった国々から決勝トーナメントのこなし方を学ぶ

・「連続ベスト16進出記録」を更新する

・W杯における礼節と正義感に基づいた日本らしさの継続 「サムライ」

・「個の力」を持つ選手の分厚さ 最低50人規模を担保する

・トップリーグで活躍する「怪物」の輩出

・育成の端境期の回避策を具体的に持つ

 

これらが、実現した時、ベスト8の壁は乗り越えることができるはずで、その先の「新しい景色」が見えてくるのだと思います。

 

新しい景色へ 絶えざる進化を

 

 

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追記 カタール大会最終順位を反映した最終結果

 

優勝 アルゼンチン

2位 フランス

3位 クロアチア

4位 モロッコ

 

参考資料

FIFA発表のカタールワールドカップの最終順位は以下の通り。

1位:アルゼンチン代表

2位:フランス代表

3位:クロアチア代表

4位:モロッコ代表

5位:オランダ代表

6位:イングランド代表

7位:ブラジル代表

8位:ポルトガル代表

9位:日本代表

10位:セネガル代表

11位:オーストラリア代表

12位:スイス代表

13位:スペイン代表

14位:アメリカ合衆国代表

15位:ポーランド代表

16位:韓国代表

17位:ドイツ代表

18位:エクアドル代表

19位:カメルーン代表

20位:ウルグアイ代表

21位:チュニジア代表

22位:メキシコ代表

23位:ベルギー代表

24位:ガーナ代表

25位:サウジアラビア代表

26位:イラン代表

27位:コスタリカ代表

28位:デンマーク代表

29位:セルビア代表

30位:ウェールズ代表

31位:カナダ代表

32位:カタール代表

 

 

国際サッカー連盟(FIFA)は12月18日のワールドカップ(W杯)カタール大会決勝後に公式サイトで大会を総括し、「傑出したチーム」に日本など4チームを選んだ。

日本は優勝経験のあるドイツとスペインを逆転で破り、1次リーグE組を首位通過したことなどが評価された。他の3チームは、36年ぶり優勝のアルゼンチン、3位のクロアチア、アフリカ勢で初の4強入りを果たしたモロッコ。


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